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能力の氷山モデルは、物事の表面に見える成果や行動だけでなく、その背後に潜む内面的・暗黙的な要素、すなわち知識、技能、価値観、習熟度、さらには体力や個人特性なども含めた全体像を把握するためのフレームワークです。
一般に、氷山の上部に露出している顕在能力は全体の約1割に過ぎず、実際に個人や組織のパフォーマンスを支えているのは、水面下に隠れた9割もの潜在能力であると考えられています。
したがって、業績や評価データというハードな部分だけを見るのではなく、その背景にある暗黙の要素に目を向けることが、より正確な能力評価や効果的な育成計画の策定に繋がります。
1.目に見える部分と見えない部分
氷山モデルとは、物事の見えている部分(氷山の一角)だけでなく、その背後にある内面的な要素(氷山の下の部分)も考慮して、全体像を捉えるためのフレームワークです。
氷山モデルでは、海面から上の見えているところが顕在化している能力でおよそ1割と言われています。
その海面下には9割の見えていない潜在化(暗黙化)した能力が隠れています。
能力の氷山モデルでは、水面上に現れている「ハードな部分」として、業績(仕事の成果)、仕事の質(行動特性)、職務達成度(評価データ)などが挙げられます。一方、水面下の「ソフトな部分」は、知識、技能、体力、さらには人の属性(発揮能力)、習熟能力(思考・対人能力)、気質・価値観など、目には見えにくいが実際の能力発揮に大きな影響を与える要素となります。
たとえば、ある営業担当者は、売上というハードな成果は確実に評価される一方で、顧客との信頼構築や柔軟な対話力といったソフトな資質は、見えない為に評価されにくい側面があります。しかし、こうした点を評価することが、将来的なリーダーシップの発揮や、チーム全体のモチベーション向上に寄与するケースが多く見られています。
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2.実際の事例と氷山モデルの応用
具体的な例として、製造業の現場におけるあるプロジェクトチームを考えてみましょう。プロジェクトメンバーの中には、目に見える業績として、工程の短縮やコスト削減といった数値目標を達成した者が存在しました。しかし、プロジェクトが困難局面に陥った際、ひとりのメンバーは数値的な成果だけではなく、現場の細かな動向を把握し、部内のコミュニケーションを活性化させるという見えにくい能力を発揮しました。この人物は、業績評価の数字だけでは評価しにくい「対人スキル」や「状況判断力」、ひいては「価値観」や「柔軟な発想」が裏にあったため、結果的にチーム全体の士気向上と困難な課題の克服に大きく貢献しました。こうしたエピソードから、能力の顕在部分だけでなく、隠れた要素が実際のパフォーマンスに深く影響していることが実感できるでしょう。
また、トヨタ自動車などの日本企業では、単なる数値評価に依存せず、社員の現場における「カイゼン」意識や「尊重と協働」の精神といった、見えにくい価値観や習熟度が組織の持続的な競争力の源泉とされています。実際、トヨタの現場では定期的な自己評価や360度フィードバックが導入され、社員一人ひとりの内面的な資質が見える化される試みがなされており、これによりリーダーシップの発掘や組織風土の向上が図られています。
3.氷山モデルを用いた評価と育成のメリット・注意点
このモデルを活用する大きなメリットは、単に業績や表面的な行動特性だけでなく、社員の内面に潜む能力—すなわち価値観や習熟能力、さらには発揮能力といった要素—をも把握できる点にあります。
これにより、個々の強みを正確に評価し、より効果的な育成プログラムを設計できるのです。特に、若手リーダーの育成や組織改革の分野では、「見える成果」と「見えにくい資質」の両面から総合的に評価する方法が、持続的な成長を促すうえで非常に有用です。
ただし、一方で水面下の能力評価は数値化や客観的な指標の設定が難しいという課題もあります。実際に、ある企業では、業績という明確なデータはあるものの、社員の内面的な価値観や対人能力の評価基準を作成する際に、評価者ごとの差異や主観が入りやすいという問題が指摘されました。
これゆえ、ハード面とソフト面のバランスをどのようにとり、全体として客観性を保つかは、今後の評価制度の大きな課題と言えるでしょう。
4.評価の視点と今後の展望
能力の氷山モデルは、ハーバード大学の行動科学研究者D.C.マクレランド教授らによる調査に端を発しており、同じ学歴や知能レベルを持つ中でも、業績に差が出る背景として、見えにくい行動特性や価値観が大きく影響していることが明らかになりました。
この知見は、多くの企業が従来の評価方法から脱却し、内面的な資質を重視する方向へとシフトするきっかけともなりました。
将来的には、定量的なデータだけでなく、360度フィードバックやセルフ評価、さらにはチーム内コミュニケーションを活用した多面的な評価手法の導入が進むことで、より正確で公平な人材育成が実現されると期待されます。
総じて、能力の氷山モデルは、目に見える業績が全体のほんの一部に過ぎないという視点から、個人や組織の真の成長要因を浮き彫りにする有効な手法です。
現代においては、単なる数値評価にとどまらず、内面に潜む価値観や能力を引き出すことで、組織全体の発展と持続的な成長を実現するための大きな鍵となるでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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終わり